(145)歓び
アフィレイ岬 −言わないよ
空疎な会話と、
流転の事物についての会話との、
というよりはむしろ
じ〈ン〉せい時間と夢のわけを
見出せるような類の会話との
違いはなにか。
夢 それは袖のついた鳥
時間は背が高く、長く広いスープ
人生 それは足の時間
でも これについて何が言えるのかは
いわないよ。
そして空疎な会話が
夢、時間と人生の理由についての会話と
どこが違うかも。
時間 そう それは哀しいスープ
人生とは たいまつの木
夢はからっぽ 無。
お黙り。
会話には 何 についてであれ
せめて 何 か を言おうという
欲望がいつでも同席するもの
さても 桶の中 足を隠しつ
澱んだ水をちゃぷちゃぷと
我らは神のごとく朗らか
いざ行かん 叔母のもと アルタイへ。
おば こんちわ こんちわ
放浪屋 ペギー
これ お前さまは
アカァサァタェの文字を
インク壷の鞭で奮い立てる
あの旅人ではあるまいか
あたしは老婆 あんたは肩
あたしは破れ目 あんたは蝋燭とくりゃ
さてさて 熱くなるわ
海人の耳に注いでおくれ
アフィレイ岬 ぼっとうするなよ
ほっとしな
こわがらないで
こおがるがいい
すべてがエステガをだめにするんだ
グウグウ声も雪もあるのに
おば ねえ襟のうしろを這ってよ
あなた 銅山 ふざけ屋さん。
アフィレイ岬 おばさん あんたも のろまじゃないな
あんた にゃろめのミクーカだ。
おば 離ればなれ そのまま 毎日
濡れていたわ 明らかな喜びに
聖書に洪水はあっても
こうすいにすいきょうはないのよ。
アフィレイ岬 ふばどぅ ぐれぶら しゃべりな
首領は なにを 言ったんだ
オツィパのメーデン 空騒ぎ
もしくは グランジの 謎解きか
おば あたしゃ おばさん 眼鏡もない
あたしにゃ 鼻ペチャは 見えやしない
面に かぼちゃを見ちまうのよ
つまりは チャチなものってことよ
アフィレイ岬 おばさん あんた ごまかすない
コカ マカ まぜかえすない
目にもの 見せようか
つめられて 酸っぱい目にあうぜ
コンティーリはどこだ?モンティーリはどこだ?
二倍の長さの尺はどこだ?
おば(震えながら) おやま お助け ブンディーリはやめて
あたしゃ 怖くて 死んでしまう。
アフィレイ岬(鉛筆を取りながら)
よせ よせ よせ おお
離れておくれ
叔母よ 喜びの河
熊手は 地べたにおいてくれ
船乗りをいたわっておくれ。
おば だますんじゃないよ こだますんじゃないよ
あたしゃ 錐の中に ホンシチュを見るんだ
心を冒涜するのはやめて
あたしが タイクチュだからって。
アフィレイ岬 わたしが タイクチュだからって。
おば た 食べ物なんてわたしには 何のためでもない
食らって 食らって 食らって 食らって
あんた 考えてもごらん どうしてか
この世のすべてが ハゲ山 罪山
アフィレイ岬(話を継いで)
それはそうだ ハゲ山 罪山
眠ってるときは 食わないし
食ってるときは 眠らんし
歩くときには バタバタバタ。
バタバタいわせば走り出すときた
しかし ジャムは食いものじゃないだろ
スプーンを口につっこみ、じ〈ろ〉り
砂糖が必要だ。
残念!
おば あんたってば 高慢なペチェネーク人ね
愛撫の虜 安逸の虜
なでてちょうだい わたしの胸を
座りましょうよ どこかそこらに。
アフィレイ岬 おれに 腕と花をくれ
おれに 歯と笛をくれ
おれに ナイフとグラフィン(水差し)をくれ
おれに ブローチとパラフィンをくれ。
おば 横になって 眠って 夢をごらん
あた かも 野原を 象が歩いているような
いや 象じゃなくて、ドクトル・ブッリよ
彼は 杖の上に ゼロを持っているの
ただ それはもう の じゃなくて
もう 野原 じゃなくて も じゃなくて
もう 森 じゃなくて ばるこ じゃなくて
バルコニー じゃなくて どく じゃなくて
どくろ じゃなくて 豚 でもない
ただのあんた、そうよ ただのわたし。
アフィレイ岬 ああ なんておれは 嬉しくて 幸せなんだろう
おばよ 喜びの河よ
おばよ スモモのなかのスモモよ
船乗りをいたわっておくれ。
おば ねえ バチンとキッスをちょうだい
乳首と鼻の穴に まっすぐ
わたしの ベルちゃん ケルビム(智天使)ちゃん
ひざの上に おすわりよ
横から わたしを 目で まさぐって
腕は 後ろを まさぐって
アフィレイ岬 こりゃあ おばさん ふむ
素晴らしいことを思いついたもんだ
何を ダナエのように 見てるんだい
おれの瞳に 法悦を探し
おまえは 言いたいんだろう 『私だけが
あんたのために サン・ベルナールの頂きからやっ て来たんじゃないさ、ぺっ!アルタイが
あんたを幾露里も運んできたのよ』
おば まあ 幾露里は 幾露里
まあ 頂きは 頂き
実のところ わたし 裸なの。
あんたを愛してくれる女が 誰かほかにいて?
アフィレイ岬 いるよ ほかの女が もっとマシなのがね
もっとマシで もっときれいで
もっと生きがよくて もっと若いのが
おば なんてことを!なんてことを!なんてことを!なんてことを!
アフィレイ岬(靴下を変えながら)
わかっておくれよ おれは若い
若くてぴちぴち あんたにゃ合わない
おれは あた かも かなづちのように 打ちこんで
たくさんの蒸気を 吹き鳴らすんだぜ
おば 私の呼吸は一人で 一兵団みたい
だけど胸は 潤っているわ
わたしが 車みたいに 打ちこむと
キューブは野を1露里も飛んでいくのよ。
アフィレイ岬 あんたが強情だってことは 確かだね
おばよ 喜びの河
おばよ パノラマの世界よ
船乗りをいたわっておくれ。
おば ごらん わたしはむせび泣きつ
あんたの前に 跪く
わたしだって もと乙女
指の間に竪琴 喇叭
アフィレイ岬(幸せで飛び上がりながら)
それこそ 喜びの奔流だ
おれは 知恵の回流だ!
1930年 11月11日